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吾妻山(あづまやま)

 広島、島根の県境にそびえる比婆山連峰の雄峰。吾妻山と聞くだけで、山名に古いロマンの秘められていることを連想する。
 山名の由来だが、神話伝説の宝庫、霊山といわれるだけに、国生みの神々にまつわる。伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が、比婆山に眠るその妻伊邪那美命(いざなみのみこと)を追慕し、遠く比婆山を望んで、「吾が妻よ」と、呼びかけた。このことにちなんで、いつのころからか「吾妻山」と呼んだ。神話伝説のふるさとにふさわしい山名である。
 国定公園に指定されている吾妻山は、標高1,240メートル。緑の芝生、ブナの原生林、高山植物のキンポウゲ類や、レンゲツツジ、マツムシソウなどの花々、四季おりおりの小鳥のさえずりなど楽しめる。
 12月下旬からは、本格的な積雪となり中国山地を望む広大なゲレンデに、スキーヤーたちの歓声があがる。
 広大な草原の中に、昔、砂鉄採取のかんな流しに使われた池が点在する。この水を引いた水路が山の中腹に一線を画している。時おり放牛の群れが、山上の池にきて、水を飲む。
 大自然のふところ深く、神話のふるさとに抱かれて、命を洗われる吾妻の山である。
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