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上野公園のサクラ
(うえのこうえんのさくら)
春遅い県北地方にその到来を告げるのは、上野公園のサクラである。さまざまな木々に埋まる上野の池の畔が、淡い紅色に染まると、県北地方は春爛漫(らんまん)となる。庄原の市街に近いこの地に、灌漑(かんがい)用の上野池が開さくされたのは、江戸時代初期の慶安・承応(1648〜1655)頃のことと伝え、その後数度のかさ上げを行い、今日のような周囲約4キロメートルという規模になった。青春の思索の書として多くの若者を魅了した『愛と認識との出発』の著者倉田百三(ひゃくぞう)は、この上野池を好んだが、清澄な静寂と清浄な大気、加えて風光明美であることは江戸時代から広く知られていた。
そのような市民に親しまれている上野池畔に、数千本のサクラが植えられたのは、昭和初期のことである。人々の丹精により今は大きく生育した桜樹群は、毎年県北に春の訪れを告げつづけるとともに、多くの人の目も楽しませているわけであるが、そのいっそうの艶やかさを印象づけるのは夜桜である。淡いあかりのなかに、さまざまな彩りが幾重にも広がるさまは、春の到来を実感させ、その美しさ見事さによって、夜桜の名所として関西一円に知られている。
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