民謡は、人々の社会的共同生活の営みの中から生まれ、受け継がれてきた代表的な生活文化の一つです。 民謡を大きく分けると、「信仰の生活」「慶祝の生活」「職業の生活」から生まれた大人の生活の歌と、子どもの遊びなどから生まれた子どもの生活の歌があります。 ここでは、大人の生活の中でうたい継がれてきた歌を中心に、広島県に伝承される民謡のいくつかをご紹介します。
それぞれの生活から生まれた歌
広島県では、それぞれの地域の生産や生業に根ざした労働の歌が数多くうたい継がれてきました。
中国山地が東西に走る県北部には、「木挽き歌」「木出し」「木遣り」「筏流し」「柴刈り歌」「山行き歌」「牛追いかけ」「馬追いかけ」など、山林関係(畜産を含む)の職業の歌が残されています。
また、中国山地は砂鉄の産地であったため製鉄事業が盛んで、その中で生まれた「たたら歌」も今に伝わります。
中国山地と瀬戸内海に挟まれた中部地域では、人々は主に農業に従事していました。
その中心は稲作で、「代掻き歌」「苗取り歌」「田植え歌」「草取り歌」などがうたい継がれてきました。
田植えには、田の大きさにより、一家総出で作業をする「仕事田」と、早乙女を多数集めて音頭取りの歌に合わせて行なう「囃し田」があり、それぞれに歌が伝承されています。
南部の海浜地域には、大小幾多の島を浮かべた波穏やかな瀬戸内海が横たわっているため、漁業関係の歌が多く伝承されています。 特に、昔は魚の種類によってそれぞれ独自の漁法があったため、「ごち網歌」「うたせ網歌」「ぼら網歌」「小網歌」「鰯網歌」など、漁法によって異なる歌がうたわれました。 また、広島県の海は、昔は海苔の産地として有名であったため「海苔とり歌」などもありました。 しかし、これら古い漁法に関する歌はほとんどうたわれなくなり、海で船を漕ぐ時にうたう「櫓歌(船歌)」だけが今もなおうたい継がれています。 また、瀬戸内海沿岸では塩田が発達し、一時は全国の塩の9割を産出していました。このため、「沼井叩き歌」「浜持ち歌」「浜子歌」などの塩作りの歌も伝わります。
その他、広島県は全国でも屈指の酒造地であるため「桶洗い歌」「米磨ぎ歌」などの酒造りの歌や、和紙の生産でうたわれた「紙漉き歌」、筆の生産で有名な安芸郡熊野町の「筆作り歌」などが伝承されています。
「信仰の生活」でうたわれた歌には、神社に関係するものと寺院に関係するものがあります。 神社に関係するものは、夏の祭礼の際にうたわれた「宮ぶし」や秋の祭礼でうたわれた「俵もみ歌」、そして神楽関係の歌などです。 神楽関係の歌では、「神楽せぎ歌」(神楽が奉納される際に開演時間が延びたりすると、舞い手の登場を催促する歌)「神楽讃め歌」などが伝わります。 寺院に関するものでは、先祖の霊を迎えて祀る盂蘭盆という行事に関連した「盆踊歌」などが伝承されています。
「慶祝の生活」の歌には、大きく分けて、婚礼、家の新築、船の新造などの祝い事でうたわれた歌と、人々の集まる酒席などでうたわれた騒ぎ事の歌があります。 祝い事の歌の中でも、御調川沿いの町村の婚礼時にうたわれた「平句」は、昔のままの歌詞が今に伝わります。 また、家の新築を祝う「地搗歌」や船の新造を祝う「船下ろし歌」「筒締め歌」なども伝承されています。 騒ぎ事の歌としては、広島県では主に「さんこ」「高い山」などがうたわれてきました。
注)
1. | 広島県内の23市町より各1件ずつご紹介しています。 |
2. | 繰り返されるはやし言葉は、原則として最初のみを掲載しています。 |
3. | 長い歌については、その中で特色を表している部分を中心に抜粋して掲載し、その場合は末尾に*を付しています。 |
4. | 一部に、現代における人権尊重の考え方にそぐわない記述を含む場合もありますが、昔の人々の生活や心情を忠実に伝えるため、極力原本どおりに掲載しています(一部、漢字等の間違いについては修正) |
それぞれの生活から生まれた歌