お知らせ : 広島県立歴史博物館 企画展「時代を作った技―中世の生産革命―」
広島県立歴史博物館(福山市)では、11月4日(月・休日)まで国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)との共同企画による企画展「時代を作った技―中世の生産革命―」を開催しています。
日本の経済的繁栄を支えた原動力が、優れたモノ作りの技術にあることはだれもが認めるところでしょう。こうした高度なモノ作りの技術が日本列島において大きく開花したのが、12世紀から17世紀にかけてのことでした。この企画展では、平安時代末期から江戸時代初期にかけての多様な生産技術の発展が、人々の日常生活を大きく変え、新たな社会体制や時代を作り出していく原動力になったことを、900点におよぶ展示資料によって紹介します。
●漆器の量産
たとえば漆塗りの器。平安時代までは貴族や役所の儀礼など、限られた機会だけに用いられる容器でしたが、平安時代後期には塗りの工程や材料を大幅に簡略化した安価な製品を量産する技術が開発され、鎌倉時代になると人々の日常の食卓は華麗な漆器によって彩られるようになります。その具体的な例が、福山市草戸千軒町遺跡における食膳の復元です。これは、遺跡から出土した鎌倉時代の食器を再構成したものですが、漆器や中国産の陶磁器が民衆生活に普及していたことがわかります。
鎌倉時代には漆器や中国産陶磁器のほかにも、備前焼(岡山県)・東播系須恵器(兵庫県)・常滑焼・瀬戸焼(愛知県)といった国産陶器や、肥前(長崎県)の滑石製石鍋の生産なども活発になり、全国にはりめぐらされた交通網によって大量の製品が流通し、人々の生活を豊かにしていったのです。
●輸出された鏡
中世に育まれた優れた生産技術によって、製品の海外輸出もさかんになります。当時は刀剣・鏡・漆器などの工芸品が中国をはじめとするアジアに向けて輸出されていたことが知られていますが、それらの多くは、繊細な技術によるできばえの美しさが評価されていました。ここでは鏡を取り上げて、その一端を紹介します。
日本の古代の鏡は、中国から輸入された青銅鏡や、それをまねて国内で作られたものです。ところが、平安時代後期以降には中国の影響を脱した和鏡と呼ばれる青銅鏡が国産されるようになり、独自の技術を発展させていきます。近年の考古学的な発掘調査によって、こうした鏡の大部分は現在の京都駅の北側、かつて七条町・八条院町と呼ばれた一帯で生産されていたことが明らかになってきました。
写真の牡丹双鳳鏡は中国・上海で発見された青銅鏡ですが、その文様から京都で生産されたことは明らかです。ところが、側面には中国・元の「延祐二年(1315)」という年号とともに、中国の鏡の名産地である浙江省湖州で昌卿という工人が製作したという銘が刻まれています。おそらくは、その優れたできばえに中国産を名乗りたかったのでしょうが、実は日本から輸入したものだったということです。
●技術が時代を変えた
企画展では、このほかにも木材・石材の加工や、木製品・骨角製品・金属製品・ガラス製品の生産をはじめ、印刷技術に関する資料も展示し、それらが権力とどのような関係をもちながら、社会や時代を変えていったのかを紹介しています。
広島県地域の経済も、優れたモノ作りの技術を有する多くの企業に支えられていますが、こうした技術の未来を考えるためにも、私たちの祖先が育んできた技術の歴史に学んでみてはいかがでしょうか。
(広島県立歴史博物館主任学芸員 鈴木康之)
※写真説明
1枚目「鎌倉時代の食膳の復元(広島県立歴史博物館蔵)」
2枚目「牡丹双鳳鏡(個人蔵・京都国立博物館写真提供)」
国立歴史民俗博物館共同企画・平成25年度企画展「時代を作った技―中世の生産革命―」
【期日】2013年9月13日(金)−11月4日(月・休日)※休館日:月曜日(祝日は開館)
【時間】9:00−17:00(入館は16:30まで)
【場所】広島県立歴史博物館(福山市西町2−4−1)
【入館料】一般700円(560円) 高校生・大学生520円(410円) 小学生・中学生350円(280円)※( )内は特別前売入館券、20名以上の団体
【問合せ先】広島県立歴史博物館084−931−2513
≪関連行事≫
◎企画展開催記念講演会「時代を作った技―中世の生産革命―」
【日時】10月12日(土)14:00
【講師】鈴木康之(広島県立歴史博物館 主任学芸員)
◎企画展開催記念セミナー「中世の生産革命を探る」
【日時】10月26日(土)13:00−16:00
◎展示解説会
【日時】10月6日(日)・13日(日)・27日(日)13:30−14:30
◎関連講座 博物館大学(3)「中世の漆工技術」
【日時】10月5日(土)14:00−15:30
【講師】四柳嘉章(石川県輪島漆芸美術館長)
◎関連講座 博物館大学(4)「瀬戸・美濃大窯の生産構造」
【日時】11月2日(土)14:00−15:30
【講師】藤澤良祐(愛知学院大学教授)