レポート : 地域とアートが出会う「旧中工場アートプロジェクト」
広島市立大学芸術学部現代表現領域の柳幸典助教授や学生が中心となり企画、開催している「旧中工場アートプロジェクト」。4月1日(日)〜22日(日)までの会期中には、広島市環境局旧中工場を始めとして、吉島地域、旧日本銀行広島支店などで3つの企画展を同時開催します。それらを回ってみるとともに、「わたしの庭とみんなの庭」展の企画担当者のお一人である今井みはるさんにお話を伺いました。
■ どうして旧中工場? ■
吉島は中心地から最も近いウォーターフロント。平和公園とは南北の都市軸で結ばれています。魅力ある都市づくりのためには、都市軸を形成していくとともに、そこに文化軸を重ねていく必要があるのではないか。都市のゴミが集積してきた旧ゴミ焼却施設は、都市生活を享受する裏側の部分を考えるのに最適な場所ではないか。現代美術は、社会にかかわっていかなければならないもの。ここをアートセンター(仮称)とし、地域との関わりを持つなかで、何か新しいものを生み出していきたい。そういった想いのなか、旧中工場を拠点としたこのプロジェクトはスタートしたようです。
その本来の機能を終えた施設が、アーティストのイマジネーションを介するとどのように活用され、生まれ変わっていくのか?また、アートと地域との出会いは、それぞれに何をもたらすのか?アーティストと吉島地域の意欲的な取り組みに注目してみたいと思います。
■ ドラマが生まれた! ■
3つの企画展のうち、先ず、吉島・吉島東学区の多様な場所を展示会場とした「わたしの庭とみんなの庭」展の魅力をお伝えします。この展示会場となったのは、吉島公民館を始めとして、福祉センター、集会所、空き地、会社の壁面などで、地域の人たちが普段何気なく使用したり、目にしている場所です。県内外から集まったアーティストたちが、そこで住民とコミュニケーションを図りながら作品の制作を行いました。
企画担当者の今井さんによれば、必ずしも最初から地域の人たちが協力的だったわけではなかったようです。このようなプロジェクトに反対したり、疑問を投げかける地域団体もあったとのこと。しかし、反対はしても説明会には参加し、アーティストによる講座にもほぼ毎回参加してくれたそうです。
企画者側でも、地域の集まりには積極的に参加し、一緒にお酒を飲んだりしました。そのような互いに相手を理解しようとする努力が双方の距離を縮め、当初反対していた団体も気軽に手伝ってくれるようになったそうです。また、最初は「現代美術なんかよくわからない」と言っていた人が、会期が迫ると「皆に宣伝しておいたよ」と。集会所に泊まりながら制作するアーティストたちのために、お米を提供してくれる人や制作の場所を貸してくれる人など、地域の人がそれぞれ自分たちにできることはないかと考えます。「プロジェクトのオープニングには、地域の人たちが大勢来てくれました。涙が出るほどうれしかった」と今井さん。
プロジェクトをきっかけに、地域が動き出しました。「今後は、お互いに支えあう関係を作っていけたら」ということでした。
■ 「わたしの庭とみんなの庭」展の魅力は? ■
美術館ではなく、地域にある場や物を活用した展覧会の魅力は、何といってもアーティストやそれを支える地域の人たちとの交流ではないでしょうか。今井さんによれば、「設備の整った展示用の施設ではなく地域で展示活動をする場合、できることとできないことがあります。そこを地域の人たちと一緒に考えること、そのプロセス自体が重要ではないか」ということでした。会期中にも公開制作やワークショップが行われます。アーティストたちの制作の場にあなたも参加してみませんか。展示作品の監視をしているボランティアの人たちと、作品や地域の事などについて話をしてみるのも面白そうです。
■ 場の持つ意味が語りかけてくる ■
最後に、旧中工場プラットホームで開催されている「ゴミがアートになる!超高品質なホコリ」展と、旧日本銀行広島支店で開催されている「金庫室のゲルトシャイサー」展についてご紹介します。
前者で展示されている作品の素材は、いわゆるゴミ!ホコリ、毛玉、髪の毛、ふけ、糸屑、チューイングガム、昆虫の死骸・・・など。それらが絶妙なバランスで芸術作品に生まれ変わっています。ふけで描かれていると知らなければ、おもわず「キレイ!」と叫んでしまいそうです。ゴミを廃棄することが目的だった施設で、ゴミを素材とした作品を鑑賞する。このアンビバレントな体験が、私たちのゴミに対する価値観を変えてしまうかもしれません。
後者は、このプロジェクトの総合ディレクター柳幸典氏による企画です。広島市指定重要文化財ともなっている被爆建物の中で、その建物が歴史的に担っていた機能である「貨幣システム」や、その独占機関である「国家」、そして「戦争」などをテーマとした作品が展示されています。金融関係の書物を植木鉢にした金のなる木、巨大な世界地図と巨大な紙幣のイメージを表裏に貼り付けたパズルなど、地下金庫内で繰り広げられている不思議な世界は、貨幣の持つ意味を改めて私たちに問いかけてきます。
県内外から総勢70名のアーティストが手弁当で参加した旧中工場アートプロジェクト。その不思議な世界を楽しみながら、“ゴミ”や“貨幣”の持つ意味をもう一度考えてみませんか(KK)。
※ 詳しい内容についてはこちらをご覧ください。http://nakakoujou.jugem.jp/